2021.09.08

楊旭君(特任助教)が第一著者の『3段階スラリーレス電気化学機械研磨によるSiCウエハの革新的製造プロセス』に関する論文がJournal of Manufacturing Processes誌に掲載されました。

 SiCは次世代のパワーデバイス用半導体材料として大きく期待されていますが、高硬度かつ化学的に不活性であるためにウエハの製造が困難です。現在、デバイス用のSiCウエハの製造では、スライシング後に、研削、ラッピング、ポリシングなどの後工程を必要とするため、工程数が非常に多く、複雑かつ効率が低いです。また、SiCウエハの最終仕上げ法としてスラリーと呼ばれるアルカリ等の薬液と砥粒を含む溶液を用いた化学機械研磨(CMP)プロセスが一般的に用いられていますが、その加工能率は大変低く、また、スラリーの購入および廃棄する際の処理コストが大きい等の問題点を有しています。
 SiCウエハを低コストかつ高効率に製造するため、本論文では3段階のスラリーレス電気化学機械研磨(ECMP)プロセスを提案しました。本プロセスでは、スライシングにより作製したウエハの表面に対して、第1段階では表面のうねりと深いダメージ層を高平坦な硬質砥粒砥石と高電流密度(高電位)条件を用いて高効率に除去し、表面の平坦化とスライシング時に形成された深いダメージ層の除去を行います。第2段階では軟質砥粒砥石と高電流密度(高電位)を用いた粗ECMPにより、前工程で表面に残留した浅いダメージ層を高効率に除去し、ダメージフリーな表面を得ます。第3段階では軟質砥粒砥石と不働態電位を用いた仕上げECMPで粗ECMPにおいて残留した高空間周波数の粗さ成分を除去し、原子オーダで平滑な表面を得ます。提案した製造プロセスを8000番の硬質ダイヤモンド砥石と軟質セリア砥石を用いたECMP実験で検証しました。本実験では、1台のECMP装置および1回のウエハ設置作業で、スライシング後のSiCウエハを初期表面とし、2時間以内でダメージフリーかつ原子オーダで滑らかな表面を得ることに成功しました。今後、提案した3段階のスラリーレスECMPにより、SiCウエハの低コストかつ環境負荷が小さな製造が実現され、SiCウエハ製造プロセスの簡略化と低コスト化が期待できます。
 以上の研究成果はJournal of Manufacturing Processes誌に掲載されました。
 
Xu. Yang, X. Yang, K. Kawai, K. Arima, K. Yamamura
Novel SiC wafer manufacturing process employing three-step slurryless electrochemical mechanical polishing
Journal of Manufacturing Processes 70 (2021) 350-360.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1526612521006435?via%3Dihub