2024.05.01

当研究室で開発した単結晶SiCのスラリーレス電気化学機械研磨プロセスにおいて、アルカリ性電解液を用いた陽極酸化メカニズムに関する論文が、孫栄硯助教を第一著者としてCIRP Annals誌に掲載されました。

 SiCは次世代のパワーデバイス用半導体材料として大きく期待されていますが、高硬度かつ化学的に不活性のため、既存の製造プロセスでは要求仕様を満足するウエハを高能率に得ることが困難である。現在、SiCの研磨法として薬液と遊離砥粒を含むスラリーを用いたCMP(Chemical Mechanical Polishing)プロセスを用いられている。しかしながら、加工能率が低い、材料の表面欠陥が薬液成分によって浸食されて形成されるエッチピットのために表面粗さが悪化する、凝集による砥粒の粗大化が生じてスクラッチが形成される、スラリーの価格および環境負荷が大きい、等の多くの問題を抱えている。
 CMPの課題を解決するため、当研究室では、スラリーを用いずにSiCの表面を陽極酸化により軟質化し、軟質層のみを母材よりも柔らかな固定砥粒を用いて除去することで、ピットフリーかつダメージフリーな表面を得る革新的な陽極酸化援用電気化学機械研磨(Electrochemical Mechanical Polishing: ECMP)プロセスを開発した。これまで、中性電解液NaClを用いて単結晶SiCの研磨において、スライスウエハに対して23μm/h(通常のCMPにおける研磨レートの40倍以上)の研磨レートを達成している。しかしながら、最終仕上げ段階では、酸化膜の絶縁破壊を避けるため不働態電位を使用していたため、加工レートが制限されていた。
 本論文では、ECMPの最終仕上げ段階で、高効率と高表面品質を両立させるため、中性電解液NaClの代わりにアルカリ性電解液KOHの使用を検討した。KOH電解液でSiCを陽極酸化する際、基板近傍にOH-高濃度層が形成したため、酸化反応とエッチング反応の両方が同時に起こった。酸化膜の厚さを絶縁破壊しきい値以下に保つことで、表面粗さの悪化を抑制された。不動態電位に比べて電流密度を30倍以上増加させても、表面粗さSa 0.1nmを達成した。これにより、スラリーレスECMPプロセスの最終仕上げ段階における酸化速度の低下を避けつつ、表面品質を維持することが可能となり、ECMPの実用化に向けた理論的基盤が提供された。